So-net無料ブログ作成
検索選択

僕とおじさんの朝ごはん [books]

昼メシは食わないが、朝は何か食べるので、少し惹かれた表紙。

僕とおじさんの朝ごはん(桂望実 中央公論新社)

僕とおじさんの朝ごはん

僕とおじさんの朝ごはん

  • 作者: 桂 望実
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/02/24
  • メディア: 単行本


トーストされたパンと、ぷっくりした目玉焼きと、オレンジジュースが、
どこかの街を見下ろす木製テーブルの上にのっている表紙。
登場するのは、ケータリングの仕事をしている面倒臭がりな男。
味より見た目で、下準備にどれだけ手を抜けるかを考えている。
市販品の形を変えて小奇麗に並べ、残ったものは使いまわす。

先輩に誘われてなんとなく始めた仕事に、誇りも喜びもない。
食中毒で営業停止を喰らっても、どこか他人事。
離婚した妻と暮らす高校生の息子はそっくりな性格になっている。
客からたびたび、痕跡を残さず死ねる薬を持っていないかと聞かれる。
23年前に山で滑落死した友人と妹を思い、人は運命に翻弄されると悟り、
それ以来、一生懸命に生きるのをやめてしまった。
そういう、見事なまでの男の怠惰ぶりが、前半は淡々と描かれる。
話のつながりはなく、まさかずっとこの調子なのかと不安になってくる。

仕事の帰り道に、多重衝突事故と遭遇し、しぶしぶ救助した女性は片腕を失う。
彼女がパーティー料理の依頼に来たあたりから、話が繋がり始める。
片手しかない人でも、それを意識せずに楽しめる料理を真剣に考える。
主人公目線と、そこにいる人間目線で、二方向から描かれるため、
物語は意識が偏り過ぎず、淡々とした雰囲気が壊れない。

腰を痛めて通い始めた病院のリハビリセンターで少年と出会う。
生まれてからほとんどを病院で過ごしているという13歳。
これが、タイトルの僕。
冷めた人生観を持つ少年とウマが合い、彼に手作り弁当をお裾分けするように。
最初は、餡このサンドイッチ。その後は、食べやすさなども考慮して、
手をかけた弁当を作るようになっていく。
少年の提案でサイトを作り換え、仕事の依頼も増えて、少年の両親とも親しくなる。
母親は、自分のせいで少年が健康体にならなかったと思っている。
主人公はそれを受けて言う。

「自分のせいだと思ったら――もう最後までそれでいくしかないんですよね」
(中略)
「許されたいわけじゃないのに、関係ない人から許してあげると言われているような違和感があるばかりで――そんな時は却って孤独感が増すんじゃないかと思ったものですから」


少年はあるとき、もう手術を受けず、死なせてほしいと言う。
両親は到底承服できず、主人公も説得を試みるが、少年の意志は固い。
『僕が本当の意味で生きているかどうかをもっと考えてくれたっていいと思うよ』
主人公は、尊厳死を選ぶ少年の気持ちを尊重させてやりたくもなる。
どうにかできないものかと、切り札を出して悩んだりもする。

しかし結局、少年の頼みどおり、最後の晩餐と称した朝食を作る。
秒単位で計算した焼き加減の目玉焼きに、トースト。ジュースとスープとサラダ。
少年の喜ぶ声を聞き、その嬉しさを主人公は噛みしめる。
自分はこの世に何も残せなかったという少年に、主人公は静かに話す。

「生まれてきただけで意味がある。親にとっては、生まれてきてくれたというだけで、幸せを運んでくれるんだからな。そこにいてくれるだけで充分なんだ。思っていたような子どもにならなくても、問題を起こしたとしても、自分の子どもとして生まれてきてくれただけで――それだけで充分なんだ」
(中略)
 だとしたら……僕が生まれたことにも意味があったのかな?僕は欠陥品だったから、ずっと父さんと母さんには苦痛しか与えてこなかったように思っていたけど――。


不治の病らしき少年と出会ったぐうたら中年男が改心していく物語。
だが、よくある道徳的なお涙頂戴ものではない。
とりとめのない前半の面倒臭がりエピソードが長すぎるくらいにあるおかげで、、
後半の緩やかな変化でも印象的に見えてくる。
主人公が突然劇的に変わり過ぎると白けるところを、抑えてくれる。
中年男が、他人の子ども相手に心を動かす、わざとらしくないギリギリを描く。

少年がどんな病気なのか、具体的な話はない。
恋愛問題に疲れた女、金銭的に追い詰められた男が薬で死にたいというのと、
少年が生きるのをやめたいというのとは、思いの次元が違う。
親しい人を失った過去、自分の親と、息子の存在、出会う人々との話。
主人公は否応なく多方面から生き方の影響を受ける。

とりわけ、潜在意識に根付いているらしいのが、教授から預かった薬。
楽に死ねる、というそれが本物かどうかはわからない。
しかしそれを持っていることで、主人公は生死を投げやりにはできない。
この心理を理解するのは難しい。わかるような、わからないような。

病院では出てこない、トースト。
御曹司が一度だけ食べて忘れられないコンビニのコロッケ。
腕をなくしたバレリーナが食べられるようになった餡こ。
特別な食べ物というのは、高級なものとは限らない。
最後に二番だしのための鰹節を研ぎながら、簡単な料理などないと言い切る主人公。
それはもう、冒頭とは別人のような台詞だが、変わったのではなく戻っただけ。

無暗に、頑張るだの幸せだのと前向きな言葉を使わない。
プロ野球の明るさも毛嫌いするような男の物語。
無責任な応援は相手を追い詰め、孤独にすると知っている。
その低温加減がじわじわ効いてくる。
星4つ。

nice!(0) 

nice! 0