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スズキさんの休息と遍歴 [books]

K氏ならこの本の真価を理解してくれそうで、
あちこち本屋で探しているのにまったく見つからない。

スズキさんの休息と遍歴(矢作俊彦 新潮文庫)

スズキさんの休息と遍歴―またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行 (新潮文庫)

スズキさんの休息と遍歴―またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行 (新潮文庫)

  • 作者: 矢作 俊彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/09
  • メディア: 文庫


「または かくも誇らかなるドーシーボーの騎行」と副題がある。
第一章は、三行使う大きな赤字の「で、」から始まる。
字体も様々なものを適宜使い、作者本人のイラストも頻繁に入る。
挿絵ではなく、絵文字のような扱いで、こういうのは初めて見た。

生まれて初めて有給休暇をとったスズキさんが、妻をヨーロッパ旅行へ送り、
一人息子を祖母に預け、箱根辺りを愛車で走ろうと考えている。
しかし、その日の朝届いた、ドン・キホーテの古書を見て、
息子を連れ、送り主に会いに行こうと思い立つ。
行き先は会津若松。
シトロゥエン2CV、スズキ家ではドーシーボーと呼ぶ車で北上。
1967年、学生運動の真っ只中で青春を過ごした過去を思いながら、
昔馴染みの友人に連絡を取ったり、何も知らない息子の疑問に答えたり、
道中の揉め事に巻き込まれたり、首を突っ込んだり。
意味深な言葉がわかる人と、わからない人との、微妙な掛け合いが危うい。
半分以上わからなくても、勢いのあるテンポで読めてしまう。

外国人労働者の喧嘩に立ち会い、彼を乗せて次の職場まで走り、
廃棄処理の闇業者と言い争い、屯田兵という名の居酒屋に旧友を訪ね、
その妻になっている探し人を追い八戸へ向かう。
白虎隊の墓に手を合わせ、テキヤの男と警官のやりとりに口を出し、
路肩の自動販売機で怪しいジュースを買う。
ダイコン・ブラインドの奥にいる老人と噛み合わない話をし、
時々息子に訓戒を垂れる。

「ニューヨークだってパリだって、誰だって彼だって、みんな田舎を少しずつ抱えているんだ。レーニン主義はスターリンによって田舎にされちゃったんだよ。そして、中国では田舎を都会にけしかけることで革命が成功した。――覚えておきなさい。いつかきっと判る。この百年間、都会は田舎によって戒厳令下に置かれっぱなしだってことがね」

尋ね人は下北半島におり、六ケ所村近くで『核燃』に追われている男を拾い、
またさらに情報を得て海峡を渡り、留萌、最後にはサロベツまで走る。
道中の謎の看板や、東北弁の難解さなどを真面目に面白がっているものの、
直面するのは地方の闇で、何が変わったのだろうと現代を風刺している。
読む人を選ぶし、恐らく自分も本質に辿り着けていないはずだが、
この奇抜な本文装幀は記憶に残り、誰かに見てもらいたくなる。
星2つ。

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