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眺めのいい部屋売ります [books]

国内作家に見切りをつけて、海外に飛んでみる。

眺めのいい部屋売ります(ジル・シメント 高見浩訳 小学館文庫)

眺めのいい部屋売ります (小学館文庫)

眺めのいい部屋売ります (小学館文庫)

  • 作者: ジル シメント
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/11/06
  • メディア: 文庫


ニューヨーク、イースト・ヴィレッジに住む老夫妻が主人公。
78歳の夫は画家で、77歳の妻は元教員。
12歳のダックスフントを飼っている。
エレベーターのないアパートの五階にある家に住み続けられないと考え、
売りに出すため内覧会をやる前夜、愛犬が急病で立てなくなる。

慌てて動物病院へと急ぐが、近くのトンネルで事故が起こり、大渋滞。
なんとか辿り着くが、診察結果は思わしくなく、犬を預けて帰る。
事故は事件に発展し、自爆犯が逃走したのではと、街は騒然となっていく。
そんな中でも内覧会は決行され、不動産屋と病院から何度も電話がくる。
事件が起こると、不動産売買にも影響するといわれて困惑。
犬が心配で動揺し続けるが、奇跡的な回復を遂げる。
さらに次に住む物件探しにも出掛けなければならず、二人はてんやわんや。

夫妻の古い友人と会食したり、フロリダに住む妹と電話でやりとりしたり、
行きつけのサンドイッチ店で言葉を交わしたり、テレビニュースに見入ったり、
とにかく目まぐるしく時が過ぎていく。
金曜の夜、犬の異変に気付いてから、あれこれあって、
月曜の朝、家の売買を決めて犬を引き取るまでのできごと。

夫妻が直接事件に巻き込まれたり、捜査に協力したりはまったくない。
国中の注目を浴びている近所の事件に対しては傍観者だが、
その影響を間接的に受け、右往左往させられてしまう。
二人にとって重要なのは犬と家のことであり、
それらについては当事者として果敢に向かっていく。

テレビの場面が印象的で、さも訳知り顔で話すキャスターや、
それらしいことを述べる解説者、インタビューを受ける目撃者などを
皮肉たっぷりに書いているのが面白い。
全員安全なところにいて、わんわん喚いているだけという滑稽さ。

犬目線で書かれる部分もあり、犬にとってはもう、重要なのは飼い主だけ。
誰にとって、何が一番大事なのか、それぞれ違うことがよくわかる。
直接関りがなければ、人は驚くほど冷静冷酷でいられる。
タクシードライバーの愚痴も、市長の声明も、容疑者の母の言葉も、
他人事だから現実味がない。
人質が解放されるより、飼い犬が尻尾を振るほうが遥かに嬉しい。

傍から見れば他愛ないことも、当事者にとっては大問題。
規模の大きな問題も、部外者にとっては絵空事。
そんな感想をひねり出している自分はさらに、架空世界を俯瞰するのみ。
誰よりも滑稽なのは読者自身かもしれないとまで思わされる。

結局夫妻の家がいくらで売れるのかはわからずに物語は終わる。
しかし次の家は契約してあり、事件は終結し、犬は戻ってくる。
老夫妻はおそらく、また大小の出来事を越えて新しい毎日を過ごすはず。
そう長くはないとわかっていても悲観的過ぎず、楽観視もしない。
程よい力加減が飽きさせないドタバタ劇。
星3つ。

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