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あなたの明かりが消えること [books]

亡き人と近しい夏にぴったり・・・?

あなたの明かりが消えること(柴崎竜人 小学館文庫)

あなたの明かりが消えること (小学館文庫)

あなたの明かりが消えること (小学館文庫)

  • 作者: 柴崎 竜人
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2016/12/06
  • メディア: 文庫


漫画タッチの表紙絵で小学館ということに怯んだが、借りてよかった。
主な舞台は小料理屋で、その女将は若くして亡くなっている。
夫は、作品よりもまず度重なるスキャンダルで名が売れた、美形の画家。
ほとんど家におらず、各地で浮名を流しつつ絵を描いていた。
章ごとに主人公が変わり、亡き女将の関係者たちが過去から今を物語る。

一章は、現在店の手伝いをしている初老女性。元女将の二年後輩。
いじめられっ子で、結婚しても子が生まれず離婚され、遠い旅館で仲居に。
その旅館の庭の松を眺めているときに、客として来た画家と知り合う。
以来、密かに想いを寄せているが、画家のせいで仕事を追われ、
その妻に店の手伝いを乞われる。
彼女が死病を抱えていると画家に聞き、彼の妻に対する思いの深さも知る。

「手に入れないことでしか、守れないものもある」
(「1 倉田すみ江」より)

典型的な不器用天才芸術気障男で、それを知っていながら寄り添う女たち。
一番の肝っ玉は妻だが、この手伝い女性の潔癖な一途さも相当なもの。
脳内に夢二や太宰の顔が浮かび、怠惰で頑固で純情な性格も想像できる。
時代設定はそう昔ではないのに、古めかしい雰囲気が漂い、それが心地よい。

二章は、店を継いだ一人娘が主人公。四十代で、三人の子持ち。
昔から醜聞にまみれ、母の葬儀に来なかった父のことを恨みに思っている。
その父が知らぬ間に近くに住み、目の病に冒されていると聞いて動揺する。

 許せなくても嫌いであっても、私たちはお互いに誰かと代わることはできない。何年もずっと同じ食卓を囲んできた。私たちは家族だった。
(「2 来栖愛子」より)

三章は、娘の婿養子が主人公。幼少期から育児放棄され、寂しさも知らなかった。
大学で出会った妻に、店に連れていかれ、そこで家族の温かさを知る。
世話になった礼の羊羹を持っていくと、女将に水くさいと諭される。

「あなたは謙虚だし、楽しい話で笑えるし、人のつらい気持ちもわかってあげられる賢い人だと思うの。でも賢い人っていうのはね、人に甘えるのが迷惑だと思っているのよ。甘えられた人が喜ぶだなんて、想像もできないの」
「それって、ぜんぜん賢くないみたいですね」
 倉田さんが笑う。
「そうよ。賢い人ってね、まるでバカみたいに生きていくのが下手なの。だからあまり賢くなりすぎちゃだめよ」
(「3 来栖哲生」より)

家族が欲しかった婿養子は、妻と義父の関係修復も望んでいる。
家族がいても寂しさは癒されないと、またしても画家は気障に振る舞うが、
男同士という点で、どこか通じ合うところもある。

四章は、視力を失いつつある画家が主人公。
娘に恨まれていることもわかっているが、自分の生き方は変えられない。
最後の旅行で漏らした妻の言葉を抱えて、彼女の亡きあとも共に生きている。
妻の存在がすなわち彼の生きている世界であると言い切る画家の孤独。

亡き女将、母、妻がいかに魅力的な女性なのかは、それぞれの章でよくわかる。
しかし、画家とのなれそめや過去は徹底して一切描かれない。
なぜこの夫妻が互いをここまで心のよりどころにしてきたのかは、
読者の想像に任されていて、かえってそれが嘘くさい雰囲気を出さずによい。

片想いを貫く女性、母親譲りで情に厚い娘、家族の存在を噛みしめる婿。
放蕩しながら妻の存在を片時も忘れなかった画家。
それぞれ幼少期は家族関係に恵まれず、他者の愛情に慣れていない。
といって、悲壮感に溢れているわけではなく、かっこつけすぎでもなく、
物語のテンションが四章それぞれ違って飽きない。
家族小説と紹介されているが、そうみせかけた、静かな恋愛小説。
星4つ。

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