So-net無料ブログ作成
検索選択

存在の美しい哀しみ [books]

旅に出る理由はいろいろある。
いろいろあるように、こじつける。
異母兄を探しに行った次は、異父兄。

存在の美しい哀しみ(小池真理子 文春文庫)

存在の美しい哀しみ (文春文庫)

存在の美しい哀しみ (文春文庫)

  • 作者: 小池 真理子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/02/08
  • メディア: 文庫


初出はオール讀物の短編集。それぞれ読み切りではあるが連作。
美しい観覧車の写っている表紙も、タイトルそのものも、お洒落。

第一章「プラハ逍遥」
母親が亡くなる前に話して聞かせた異父兄に会いに、プラハへ行く妹の話。
失恋もして、傷心旅行でもあるが、運よく兄を案内役に雇うことができる。
プラハ芸大でチェロを学び、住み着いている兄には何も知らせず、
観光客として美しいプラハの街をそぞろ歩き、そのまま別れる。


第二章「天空のアンナ」
五十五歳で自分が死ぬことを自覚している主人公は、第一章の母。
余命半年で一人、都心のスイートルームに宿泊し、過去を思い出す。
映画のアンナ・カレーニナを観て、心が救われる。

第三章「我々は戦士だ」
第二章の女性と職場で知り合い尊敬していた若い介護士の話。
ダッカ・ハイジャック事件のテレビ番組を見て、犯人の言葉を噛みしめる。

第四章「ただ一度の」
第一章の妹の父、第二章の女性の夫の男に想いを寄せている、同じ会社の女子。
一度だけ関係を持ち、一層忘れられず、食事に誘うが相手は来ない。

第五章「荘厳の日々」
第一章の兄の義母の話。
チェロの演奏家である夫を支え、姑の介護をする、波風のない日々を望んでいる。
かつて兄のようだった近所の青年に無理やり犯された過去を持ち、
様々なことを諦めて生きている。

第六章「片割れの月」
第五章の母の娘が主人公。有名な芸能人と不倫関係にある。
妊娠してしまい、堕胎して、心は冷めているが旅に同行する。
異母兄と過ごしたかつての夏休みを帰り道で思い出す。

第七章「ウィーン残照」
第一章の兄が、一度別れたあとで実は妹に何かを感じ、ウィーンまで追いかける。
何不自由なく育った恋人もいる身で逡巡するが、思い切って連絡をとり、
有名な観覧車に二人で乗って、妹だったとわかり、母の話を聞くことに。

秘密にまみれた人々ばかり。
ある人から見れば誠実そうでも、実はこんな過去が、という話。
辛い経験を忘れずに、自らの人生を決めてかかっている。
これでいいのだ、と思い込んで突き進むのは、強さなのか。
異国の景色、チェロをはじめとした音楽、往年の名作映画、ブランド品・・・。
第二章は例外的に介護の現場だが、他はほとんど似たような環境。
なんとなく美しい風景に包まれて優雅ではあるが、どうも腑に落ちない。

幸せそうに見えても実は悩みがあるのだというのが主題ではないはず。
ただ、その洒落た空気に圧されて、過去も美化されて見えてくる。
同情するどころか、突き放されているような気さえしてくる。
こういう生活をしていても、心底幸せな人なんかいない、といわれると、
もはや救いようがない。

だから平凡に秘密も何もないほうが幸せだと思えというのか。
感情をねじ伏せて健気に生きている素敵な人々には、なれなくてもいいと?
随分上から目線の慰めではないか。
反抗的な気持ちのほうが勝ってしまい、閉口した。
星1つ。

nice!(0) 

nice! 0