So-net無料ブログ作成
検索選択

まひるの月を追いかけて [books]

旅に出ます。
探さないでください。

と書き残して消えることへの憧れは、頭のどこかにいつもある。

まひるの月を追いかけて(恩田陸 文春文庫)

まひるの月を追いかけて (文春文庫)

まひるの月を追いかけて (文春文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/05/01
  • メディア: 文庫


「恩田ワールド全開のミステリーロードノベル」と、裏表紙に書いてある。
ほとんど交流のなかった異母兄が失踪したと聞き、その元恋人と旅に出る。
兄の仕事関連の手がかりを元に、行き先は奈良。
大和路を、観光コースに沿って歩いていく女二人旅。

幼馴染だった元恋人と兄の話をする主人公だが、序盤でまず嘘に気付く。
元恋人は事故死しており、その名を騙って、別の幼馴染が来ている。
三人で仲良くしていた女性で、事故死の原因が自分ではと不安視している。
兄の筋書きによる旅だと説明されるが、途中で現れた兄自身の言葉で、
それもまた偽りだとわかる。

設定が転々とひっくり返るため、やられた、より、またかと思うように。
主人公と一緒に疑心暗鬼に陥っていく。
どこまでが事実なのか、疑いながら読むのは疲れる。
失踪したはずの兄はすぐ見つかるが、今度は旅に連れ出した女性が突然病死。
主人公は兄と供養として旅を続け、死んだ幼馴染たちとの関係を振り返り、
出家するという兄の深層心理に近づいていく。

兄が好きだったのは誰か。
それが、幼馴染の知りたがっていた最大の謎で、
主人公の異母妹ではないかと言われるものの腑に落ちない。
最後に、主人公の母と想い合っていることが判明して終わり。

殺人犯を探すようなミステリーではなく、腹の探り合いの話。
親とうまくいっていなかったり、自身が離婚の危機にあったり、
あれこれと人間関係に悩みを抱えている。
主人公は鈍くて、基本的にはついていくだけ。
誰が好きかなんて、そんなに興味が持続しない謎で、それだけだと辛い。
大和路を巡っているというのが読み続ける力になる。

主人公を連れて歩く二人は、やたらと土地の歴史などに詳しい。
景色や解説の台詞などを読んでいると旅情をかき立てられる。


 空が広い。参道を挟むように樹齢の高い木々がぎっしりと埋めていて、雨にオゾンの香りを滲ませていた。雲が降りてきて、森を白くまだらにしている。
(「一、時に臨みて作れる歌」より)

 見通しのきかない迷路。道が狭く家が密集しているせいか、目の高さにあるものは皆目隠しになっているようだ。白壁の向こうに、雨に濡れた松が青々としている。中には、手入れされた庭があるのだろう。

 明日香は子宮の中の羊水のようだ。閉塞感があるけれど、なぜか落ち着く。誰かが空から見下ろしていて、大きな掌を広げて守ってくれているような気がする。
(「二、心の著く所無き歌」より)

 お盆のような平地に、こんもりした黒い三角形の山が離れて浮かんでいる。
 眼下に広がる、黒い甍の波。遠くまで透き通った青空は、とろりとした夕方の気配を感じさせたが、それがこの景色を柔らかくはんなりしたものに見せていた。
(「三、後れたる人の歌」より)

章の終わりに、伝承話が付記されており、物語の流れを暗示する。
風景描写も、登場人物たちの心情とリンクしているように読める。
はっきりさせることは嘘で、ぼやけたところは事実。
古墳に残る逸話のように、和歌や童話に隠された意味のように、
見せすぎずに読者を翻弄するのが、恩田ワールドか。
解説の佐野史郎さんがいうように、旅に出たくなる本。
星2つ。

nice!(0) 

nice! 0