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しあわせのねだん [books]

前記事の本で、そういや最近読んでないなと思った作家。

しあわせのねだん(角田光代 新潮文庫)

しあわせのねだん (新潮文庫)

しあわせのねだん (新潮文庫)

  • 作者: 角田 光代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/03/02
  • メディア: 文庫


目次にはずらずらと、ものの値段が書いてある。
昼めし 977円から始まる23話とあとがき、さらに
文庫版あとがきにかえて ソファテーブル30数万円で終わる。
ものの価値を主題にしたエッセイ集。

角田さんという作家のイメージをいえるほど作品を知らないけれども、
読みやすくわかりやすく、多作で売れっ子の割と若い人、と思っている。
とりたてて思い入れのある作家ではないので、エッセイも怖くない。
作品から得たイメージをぶち壊される心配がない。
読み終わり、とても気が合うとまではいかずとも、
好き嫌いで言えば好きで、親しみを感じる作家らしい。

八時から五時まで仕事、という勤務体系を自らに課している。
一日中食べることを考えているという一話目。
機械類に疎いが、ミーハーで流行は気になる。
定期はいらないのに、Suicaカードと定期入れを買って悦に入る。
バレンタインで意を決して3000円のチョコレートを買ってみる。

酒好きで偏食だが、蟹コース5820円で少し大人の自分を自覚する。
自分で金を払わない仕事の旅で、記憶があまりに薄いことに愕然とする。
立ち食い蕎麦屋に行くのは、そこが好きな人ではないと発見する。


 私はかつて、忙しい大人になんか絶対にならない、とかたく決めていた。だから、現在のように雑務に追われあっちへいきこっちへいき昼ごはんを食べる時間もないよ、という状況は、恥以外の何ものでもない。私は現在恥ずかしい大人なのである。
(「ねぎそば 390円」より)


自分ととても似ている面には深く頷きながら読む。
鞄を持つのが嫌で、仕方なく一個だけですべて間に合わせている。
人を待つのが苦手な心配性で、待ち合わせではいらいらと不安を繰り返すが、
ふいにできた空白時間に330円の豆乳入りアイスコーヒーで余裕を思い出す。
携帯電話も好きではなく、ひまな自分を忘れまいとしている。


 そうして、私たちはひまというものを何よりもおそれている。ひまで、退屈で、すべきことがない、ということは致命的だ。この場所にいる意味がことごとくなくなる。そのことを私たちはおそれる。
 そのおそろしい感じを、携帯電話は忘れさせてくれるのだ。
(「携帯電話 26000円」より)


せっかく旅を予約したが、周囲に心配されて不安に陥り、結局キャンセル。
家電製品の売り場をうろつき、冷蔵庫を買ってしまうが家に入らない。
苦手克服に4800円の松茸を買うが、やはり好きにはなれない。
異様にまずい680円のラーメンと格闘し、店を出てほっとする。
母親の誕生日に選んだ格安旅館や旅全体のひどさに懲りたが、
思い出せばそれが一番記憶に残っている。

短気で学習能力が低い、と自分を分析して反省しきり、向上を試みる日々。
失敗も糧になると捉えて書かれたエッセイ。真面目な人。
振り返ると無駄にみえる金の使い方も、今の自分にとって意味があると考える。


 私がもっとも恐怖するのが、なんにもお金を使わなくって、貯金額だけが異様に高い、ということだ。一度、そういう人に会ったことがある。(略)映画も見ず、酒も飲まず、外食もせず、旅行もせず、貯めたお金なんだなあとすぐにわかった。だってその人、中身がなんにもなかったのだ。
(「一日(1995年の、たとえば11月9日) 5964円」より)


衝動買いなどが多すぎるときは、心のバランスが悪いとあとがきにある。
確かに。無自覚な浪費は危ない。
価値観は人それぞれで、好きなものにどう金を使うかは自由でいい。
他人と比較することに意味はない。
さんざん迷った挙句でも必要と思えば、自信をもって金を使う。それが大人。

この作品が晶文社から刊行されたのは平成17年なので、物価は今と違う。
平成29年で50歳の角田さんが、どんなものを買っているのか。
食べ慣れずに苦手だという鮑が、今では大好物でよく食べるとか、
スマホを使いこなしてネットでロボット掃除機を買うとか、
そういう人にはならずにいてほしいと、勝手に思う。
星3つ。

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