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あなたと、どこかへ。 [books]

400ナイス、ありがとうございます。
ほぼお一人ですが、こんな独りよがりのブログにお付き合いくださって、
密かに嬉しく思っております。密かに。

想像力次第で、どこへでも行けて、誰にでもなれる、本。
好物のチョコやチーズがなくなっても生きてはいけるけれども、
本のない世界には耐えられない。もう、中毒。


あなたと、どこかへ。(吉田修一ほか 文春文庫)

あなたと、どこかへ。 (文春文庫)

あなたと、どこかへ。 (文春文庫)

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/05/09
  • メディア: 文庫


8人の作家の短編集。
初出は日産TEANAスペシャル・サイト。
クルマで出かける場面を用意すること、という制約のもとに書かれたらしい。
やたらど本文の文字が大きく、児童書のようで読みづらいが、
これもネット掲載時の名残なのだろうか。

吉田修一・乙女座の夫、蠍座の妻
マイペースすぎてハラハラさせられる妻と休日は好き勝手に過ごす。
毎週日曜夕方のドライブにも、妻は来たり来なかったり。
ある日、何かいいことがあったらしく、笑顔で乗り込んできた妻。
妊娠だな、と予想した通りの結末。


角田光代・時速四十キロで未来へ向かう
失恋などを機に、ほとんど引きこもり状態の姉をドライブに誘う弟。
身分不相応な高級車で、免許取り立ての弟と気ままに出掛け、
ドライブインで山菜蕎麦を食べ、昔嫌々連れていかれた家族旅行を思い出す。


 完璧に守られたあたたかな場所を出たとしても、だれも守ってなんかくれない場所で正体のよくわからないものと闘わなくちゃならないとしても、何もかもがぜんぶ嫌になってしまうときがあるにしても、それでもやっぱり大人のほうがいい。行きたい場所にアクセルを踏みこむことのできる大人のほうが。
(「時速四十キロで未来へ向かう」より)


石田衣良・本を読む旅
単行本を十冊持って、それを読むためだけに三泊四日のリゾートホテルへ行く。
朝はイングリッシュブレッド、車中のBGMはモーツァルトのシンフォニー。
嫌味なまでに優雅。

甘糟りり子・慣れることと失うこと
結婚十五周年で馴染みの銀座の宝石店で妻に指輪を買う男が、
昔の恋人と再会し、クルマの中で別れ話をしたことを思い出す。

林望・この山道を……
奥多摩の山道を、四半世紀ぶりに再会した昔の恋人とドライブする女性。
気持ちは若返るが、それぞれの人生を謳歌しようと諭される。

谷村志穂・娘の誕生日
学生結婚で一人娘を育て、誕生日にハンバーグを作り続けた妻。
娘は留学してしまい、帰りの遅い夫を諦め半分で待っている。
新車をプレゼントとしてもってきた夫と、エプロン姿でドライブへ出る。

片岡義男・遠い雷、赤い靴
外国で暮らす妻と、初めて会った海沿いのバス停を目指す写真家の男。
雷を聞いて、クルマに乗せた彼女と結婚したいきさつを思い出し、
また無性に会いたくなる。

川上弘美・夜のドライブ
年を取った母と車で温泉宿に出掛け、亡き父の思い出話をする娘。
真夜中に、ドライブに行きたいという母の言葉に驚く。

 眠れなかったの。それでね、暗い中で、いろいろ、考えたの。お父さんのこととか。剛くんのこととか。あなたたちがまだ生まれていない頃のこととか。そういえば、あたし、好きな人と二人で夜中にドライブをしたことがなかったなって、急に、思ったの。
(「夜のドライブ」より)

帰りの車中で眠ってしまった母の老いを感じ、娘は切なくなる。

運転しながら、あるいは助手席に乗って、様々のことを思う人物たち。
建物の中で向かい合うよりずっと近い距離にいられる空間。
じっとしていても景色は流れるが、バスや電車にはない自由もある。
どこへでも行けるという解放感が、人の気持ちを寛大にさせたりもする。
誰にも邪魔されない時間。

スポンサーありきの話だけあって、そのまま不倫だの決別だの、
負の展開にはならない。かつ、安全運転で快適なドライブ。
目的地まで移動するためだけの手段ではなく、乗ること自体が楽しい、
そう思える人たちの物語。
どこへ行くにも車しかない北海道のようなところだと、事情は変わるものの、
公共交通のほうが便利な都会で、あえてクルマを選ぶ贅沢感が漂う。
今すぐクルマでどこかへ行きたくなる、罪深い本。
星3つ。

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