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南下せよと彼女は言う [books]

フェルメールで検索して出てきて、不思議に思って借りた。

南下せよと彼女は言う(有吉玉青 小学館文庫)

南下せよと彼女は言う (小学館文庫)

南下せよと彼女は言う (小学館文庫)

  • 作者: 有吉 玉青
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2014/07/08
  • メディア: 文庫


様々な国へ旅する6つの短編集。

『アムステルダムたち』はオランダ。
高校時代からの友人である男3人が、社会人二年目のゴールデンウィークに旅へ。
うち一人の両親がアムステルダムに住んでいる。
旅立つ直前に恋人ができた一人だが、言いふらさないようにといわれている。
彼女が好きなフェルメールの絵を見たりして、思いを馳せている。
しかし、言葉の端々で彼女のことに触れるうち、他の一人が疑惑に気づき、
マウリッツハウス美術館で、3人の恋人が同じ女性だと判明する。


 晴彦は少女と目が合って、息を呑んだ。きれいな絵だが、すごい目力だ。射すくめられて動けない、そんな気がする。
「この絵の前では嘘が言えない感じだろう」


生ニシンやクロケットを食べ、水上バスで運河をめぐるなど旅情満点。
「書き割り舞台のよう」な家並みや、飾り窓地帯の様子も面白い。

『橋、燃える』は、スイス。
ドイツからスイスを経てパリに行くツアーに参加する、定年を迎えた夫婦。
かつてスイスで知り合い、不倫関係となって結婚した過去を、妻が振り返る。
『橙色の瓦葺き屋根のついた木製の桁橋』であるカペル橋が、思い出の地。
一度燃えて再建された橋に、過去と現在の自分を重ね合わせる。

『秋の休暇』は、フランス。
32歳、初めての一人旅でパリに来ている女主人公のはなし。
亡き母の友人だった女性に会おうとしていたが連絡がつかずに数日が過ぎる。
食事のメニューはわからず、観光名所をめぐっても時間を持て余す。
何かの手違いでホテルも替わる羽目になり、なかなか思うようにいかない。
妻子持ちの恋人を振り切りたい気持ちもほぐれない。
ようやく慣れてきた最終日に、亡き母の友人と会えることになり、
その人生訓を聞き、背を押される。

『添乗員のクリスマス』は、ドイツ。
クリスマス・マーケットなどを巡るツアー添乗員の男が主人公。
唯一一人で参加している女性が気になってしまう。
美術館や街の歴史など、一緒に旅をしているように読める。

『ピアッツァにようこそ』は、ヴェネツィア。
遅い夏休みにイタリア旅行にでかけた42歳の独身女性。
スーパー・キャリアウーマンの旧友に案内を買われて辟易していたが、
都合でその部下がやってきて、ヴェネツィアでは偶然同窓生の男たちと会い、
結局は楽しく、好きな映画のロケ地を中心にまわることになる。


 汽笛を鳴らしながら、パラッツォと呼ばれる、かつての貴族の瀟洒な館が並ぶ両岸を、対岸、此岸と順に停留所に停まってゆく。ゴンドラが行く、ボートも行く。鐘楼から鐘が鳴り響く。うそみたいに騒がしく、うそみたいに楽しい街。テーマパークにいるようだが、これはすべて本物なのだ。


『南へ…!』は、スペイン。
定年後に行こうと話していたスペインへ、直前に妻を亡くして一人で行く夫。
しばらくはスペイン広場でぼんやりするが、日本人観光客の言葉に促され、
ようやく妻が書き込みをしていたガイドブックを開き、その印のあとを辿る。
闘牛、美術館、ドン・キホーテの風車、アルハンブラ宮殿、ひまわり畑。
妻の存在を感じながら、やたらと涙を流し、懺悔のように夫は車を走らせる。

『永遠の一日』はハワイ。
一年だけハワイに住んでいた妻との新婚旅行。
妻が通っていた小学校を訪ね、そこからかつての友を探し出し、
思い出話をしながら名所をめぐり、最後は友人宅で結婚祝いをしてもらう。


絵画や映画について細かく書かれており、実物を知っていたら
もっと楽しく読めるだろうにと自分の無知さが情けなくなる。
行ったことのある場所が出てくると、懐かしいとまで思う。
小説としての筋を追うより、紀行文のように場面を眺めて読んでしまう。

あちこちのいいとこどりで歩く様子は、旅先あるある、の面白味もある。
ぞろぞろと練り歩くツアーよりストイックになってしまう一人旅など、
そうかもしれないと思わせる。
一人より、共有する誰かがいたほうがよいように書かれるのは、
そういう設定の物語だから仕方がないのか。

何か、気持ちにケリをつけるためと気負った主人公もいる。
日常を離れた場所では思考が素直になるのは事実としても、
そういう気負い自体が少々煩わしくみえる。
そんな宿題を抱えた旅は重苦しい。
軽やかに、どこかへ出かけたくなる本。
星3つ。
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