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花祭 [books]

点字ブロックの上を蟻が歩いていた。
数日前まで雪が覆っていたのに、一気に春が押し寄せている。

花祭(平岩弓枝 講談社)

花祭

花祭

  • 作者: 平岩 弓枝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1981/08
  • メディア: 単行本


時代小説ではない平岩さん作品。
5章からなる長編。
主人公は35歳の男で、藤沢の化粧品会社で香水の調香師をしている。
そこへ入ってくる40歳の美しい人妻がヒロイン。

下北沢の実家の姉夫婦が仕事でジャカルタに行く機会に、結婚話が進む。
親交のあった所長の娘、22歳と勢いで結婚し、実家住まいになる主人公。
しかし同居を始めると、年の差を実感し、妻とは疎遠になっていく。
一方、仕事を共にする人妻に淡い想いを抱くように。

鎌倉で贅沢な暮らしをする人妻の夫は旧態依然で粗暴なワンマン男。
取引先のデザイナーと愛人関係にある場面を目撃した妻は、
憤った勢いで同僚と一夜を共にしてしまい、その同僚はすっかり腑抜けに。
それを知った夫の執拗な嫌がらせでノイローゼに陥り、
研修で赴いたフランスでついに自殺してしまう。

責任を感じ反省する人妻も会社を辞めるが、
何かと会う機会のある主人公への好意が高まっていく。
主人公の新妻は箱入り娘で結婚生活に幻滅し、甥の家庭教師と浮気を繰り返す。
いよいよ心が離れ、離婚を決め、会社も辞め、フランスに移住する。
悪人の夫が仕向けた再会で二人の愛情は確かなものに。

主人公の支援も受けて自立を目指す妻だが、夫の報復はエスカレートし、
ついに耐えかねた妻は殺人を犯してしまう。
フランスで調査を受け、密かに会う段取りをつけるも、直前に刑事に見つかり、
人妻はビルから飛び降りて、終わり。

働き盛りの男と、女盛りの女の、不倫だが潔癖に見える関係。
陰湿で嫉妬深い中年男と、厚顔な愛人と、恋に溺れた被害者青年と、我儘娘と、
振り回される親と、裏切りの兄弟などが絡み合う話。
最終的には全員が不幸。
物語としてはギトギトしているのに、調香という職業のせいか、
後半で頻出するフランスの雰囲気のせいか、惑わされる周囲が滑稽にみえる。

「俺、花は生き物だってことを忘れていたよ」

終盤で、捨て鉢になっていた主人公が呟く。
香水に使う花も毎年香りが変わると教わる場面だが、登場人物の比喩に聞こえる。
我を忘れたように、人々の流れに合わせていく主人公のどこに魅力があるのか。
常識的に見せかけて、妙な度胸のあるところか。
美人だが、衝動的な言動に走ってしまうヒロインに、なぜ男は惹かれるのか。
近くにいると厄介なのに、危なっかしいところがかえっていいのか。

実在の地名が頻出し、男性優位の風潮がまだ色濃く残る、少し前の世界。
善悪はともあれ、それぞれの人間が割と大胆に振る舞っている。
手紙や固定電話を使ったやりとりはスピード感のない代わりに、重みがある。
婚姻関係、親子関係、職場関係、現代とは繋がり方が違って厚みがある。
薄っぺらな現代の現実と比較すると、一層ドラマチックにみえる物語。
はらはらするばかりで楽しさはほとんどないのに、なぜか読まされる。
星2つ。

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