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面白南極料理人 [books]

もっと寒いところの話を読めば、ここが温かく感じるかもしれない。
と期待したわけではないが。

面白南極料理人(西村淳 新潮文庫)

面白南極料理人 (新潮文庫)

面白南極料理人 (新潮文庫)

  • 作者: 西村 淳
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/09/29
  • メディア: 文庫


和田誠さんの表紙絵にはペンギンが描かれている。
が、話の舞台はウイルスも生存できない極寒の南極ドーム基地。
第30次南極観測隊に参加した海上保安官の著者が、
第38次南極観測隊ドーム基地越冬隊に選ばれ、
昭和基地から一千キロ離れた標高3800m、
平均気温マイナス57℃というドームふじ観測拠点で1年過ごす。
総勢9名の男性隊員たちの日々を面白く描いた本。
好きな映画、南極料理人の元となった本、と記憶している。

調理担当の著者の仕事は、積み荷の食料調達から。
すべてが凍結する世界で長期保存するという前提にそもそも無理がある。
野菜や卵や牛乳をどうするか、など苦労しつつ、冷凍技術の発達も披露。
人間は年間に約1トンの食べ物が必要らしい。
また、基地までの移動中の乏しい設備での食料問題もある。
のっけから膨大な量のあれこれが書かれて圧倒される。
途中で補給できない、後戻りもできない、極地の厳しさは想像に絶する。

研究者たちはそれぞれの観測などをこなし、他はそのときどきで
補助作業を担うため、著者も料理ばかりやっているわけではない。
仲良くなった医師もハイパワーで、燃料タンクを人力で転がしたり。
超低温、低酸素の中では、なんでも重労働。命に係わることも多い。
しかしすべて楽しそうに書かれている。
マイナス40度の暖かい日にソフトボールを開催。


 体に布団を巻き付け、足には重石入りの下駄をはき、両手は軍手の上にオーブンミトンを重ねると大体近い形状になる。ここまでハンデを背負えば過去の球技経験のあるなしはまったく関係なしで、イチローや松井がここにきても、ただの雪だるまとなりはてる。
 ゴロはひたすら上から押さえるだけで、フライをダイレクトで捕球するのは全く不可能。革のグローブは「奈良の大仏さん」の手のようにカチカチになり、ボールもたちまち凍り付いて鋼鉄の塊となり、金属バットは金属の柔軟性がなくなるせいか球が当たると「キーン!」という金属音ではなく「バキッ!!」と鈍い音がして、へこむ・折れる・ひびが入る、の三者どれかとなる。
(「作業と宴会の日々」より)


チェーンソーが凍ったりする中で、観測所や冷凍庫を建て、
1000リットルの水を毎日作り、凍傷になったり、露天風呂を作ったり。
何かと区切りをつけては宴会を開き、誕生会はリクエストをとる。
伊勢えび丸ごと一本入った味噌汁、外でのジンギスカンパーティ、
たらば・花咲・ずわい・毛蟹づくし、フォワグラサラダ、松阪牛ヒレステーキ
など豪華料理もあれば、サッポロ一番みそラーメンに行列したり。
創意工夫のなんちゃって料理は、日本でも真似できそうで楽しい。

実験に成功して喜び、太陽が出て喜び、補給隊の久々の人類と会って喜ぶ。
単に能天気な楽天家というわけではないが、著者の豪胆な性格がうかがえる。
逃げ場のない基地での男たちの共同生活。
解説の佐々木譲氏もいうとおり、
「酷寒よりも猛吹雪よりも、そのことのほうに恐れおののく。」
他人事だから楽しいけれども、自分がそこにいたらと思うと、
思うこと自体が苦痛でさえある。

極限生活で人間がどうなっていくかを真面目に観察したり、
それはどうなんだ?という怒りなどをジトジト書いたりは、ほぼない。
著者はあえて面白要素を前面に押し出しただけで、実際は色々考えている
だろう、というのは伝わってくる。
さらっと書かれているが、とんでもない仕事をする人々がたくさんいる。
深読みすれば哲学書のようにもなるが、
美味しいものを誰かと食べるって万能の薬なんですねと思うあたりでやめる。
下手な小説より想像力を刺激される本。
星4つ。
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